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東京地方裁判所 平成12年(ワ)15979号 判決

原告 佐藤秀一

右訴訟代理人弁護士 湯浅徹志

被告 株式会社群馬プレスカントリークラブ

右代表者代表取締役 宮下一東洋

右訴訟代理人弁護士 蓮見和也

主文

一  被告は、原告に対し、金一七〇〇万円及びこれに対する平成一二年八月五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  はじめに

本件は、預託金会員制のゴルフクラブに入会した原告が、預託金の据置期間が経過したとして、ゴルフクラブからの退会の意思表示をし、預託金の返還及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。

二  前提となる事実(括弧内に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  被告は、預託金会員制のゴルフクラブであるプレスカントリークラブ(以下「本件クラブ」という。)を経営する株式会社である。

2  原告は、本件クラブの正会員となるための入会申込みをし、預り証書発行の日から一〇年間据え置くとの約定のもとに、入会保証金(預託金)一七〇〇万円を預託して(以下「本件預託金」という。)、本件クラブの正会員(会員証番号A第〇一〇五七号)となり、平成二年五月一〇日、預り証書の発行を受けた。 (甲一)

3  本件クラブの会則(以下「本件会則」という。)には、以下の趣旨の規定がある。 (甲二)

(一) 入会保証金(預託金)(第一四条)

入会保証金(預託金)は、預託金証書発行の日から一〇年間据え置き、その後は、会員の申し出により、預託金証書を引き替えに入会保証金を返還しなければならない。会員は、入会保証金(預託金)の返還を受けると同時にその資格を失う。

(二) 据置期間の延長(第一五条)

会社は、天変地異その他不可抗力あるいは会社の経営、クラブの運営を著しく阻害するおそれのあるときは理事会と協議して据置期間を延長することができる。

4  原告は、本件の預託金の据置期間を経過した後である平成一二年八月四日到達の本件訴状において、被告に対し、本件クラブを退会する旨の意思表示をするとともに、預託金の返還を請求した。

5  被告は、平成一一年二月二七日及び同年六月二七日開催の理事会の承認を得たうえで、同年七月三日開催の取締役会において、本件クラブの全会員の預託金の据置期間を一律平成二一年一二月二五日まで一〇年間延長する旨の決議をした。 (乙八ないし一四、二二)

三  争点

被告の据置期間の延長決議は有効か。

(被告の主張)

1 原告は、平成二年五月一〇日、普通約款の性質を有する本件ゴルフ場の会則一五条「会社は、天変地異その他不可抗力、あるいは会社の経営クラブ運営を著しく阻害するおそれのあるときは、理事会と協議して据置期間を延期することができる」との会則条項を承認して、本件クラブに入会した。

2 被告は、平成一一年七月三日、(一)深刻な経営危機のなかで、本件預託金を返還実施することは、「会社の経営及び倶楽部の運営を著しく阻害するおそれのあるとき」と判断し、(二)平成一一年二月二七日、同年六月二七日開催の理事会と協議し、その承認をしたうえで全会員の預託金の据置期間を一律平成二一年一二月二五日まで一〇年延長することを決定した。

(一)については、井田公認会計士の意見書(乙一二)からも明らかなとおり、被告の財政状態で、預託金の返還に応じることは、継続企業の基盤を失うことであり、会社の経営、クラブの運営を著しく阻害することになる。

(二)については、本件クラブの理事会の承認を得ているが、さらに、<1>本件クラブの理事会は、会員の選挙によって選ばれた民意を反映する理事によって構成されており、可及的に会員の意思を汲み上げるべく努力していること、<2>延長に対しては、預託金(会員権)を三〇〇万円と残余金の二枚の証券に分割し、どちらも売却又は親族に書換えができることとするとの代替措置を講じており、右代替措置を決定する際にも、会員に対するアンケートを行って会員の意思を反映させる努力を行っていること、<3>会員総数の過半数を超える会員(五六パーセント)が被告の延長決議に対して同意していることを考慮すると、本件の延長決議は、純粋随意条件の趣旨に反しないことは明らかであり、また、合理性があるから、本件延長決議は有効である。

(原告の主張)

否認ないし争う。

第三争点に対する判断

一  前記前提となる事実に記載したところによれば、原告は、本件会則を承認したうえで本件クラブに入会したというべきであり、本件会則は、原告とゴルフ場経営主体である被告との間の契約上の権利義務の内容を構成するものということができる。

そして、本件会則によれば、原告は、入会の際に預託した預託金を、預り証書発行の日から一〇年間の据置期間を経過後に返還請求しうる権利を有するが(本件会則第一四条)、この預託金返還請求権はゴルフ会員権を取得した者の最も基本的な権利の一つであるということができる。

したがって、このような会員の基本的な権利である預託金返還請求権を制約することになる据置期間の延長についての本件会則第一五条の規定(「会社は、天変地異その他不可抗力あるいは会社の経営、クラブの運営を著しく阻害するおそれのあるときは理事会と協議して据置期間を延長することができる。」)は、会員の預託金返還請求権を犠牲にしても、据置期間の延長決議の有効性を是認することができるような合理的な事情が存在する場合に限定して解釈すべきである。

以下、このような合理的な事情があるといえるかについて検討する。

二1  まず、被告は、延長決議をする理由について、井田公認会計士の意見書(乙一二)を引用して、平成一一年一一月には、最初の会員の預り証書発行の日から一〇年目を迎えることになるが、ゴルフ会員権の相場が、入会保証金の金額を大幅に下回っている状況では、入会保証金の返還請求が多数発生することが予想され、被告の財政状態で、預託金の返還に応じることは、継続企業の基盤を失うことであり、会社の経営、クラブの運営を著しく阻害することになると主張する。

しかしながら、預託金会員制のゴルフ場において、預託期間据置後に預託金の返還請求があることは当然に予定すべきことがらであり、このような理由によって、預託金返還請求権の据置期間を延長することが当然に是認されることになるわけではないというべきである。

2  そこで、延長決議の内容についてさらに検討すると、本件では、全会員一律に平成二一年一二月二五日まで据置期間を延長するというものであるが、原告の据置期間は平成一二年五月一一日には経過するので、本来の据置期間から九年半程度も延長することになり(当初預託したときから、一九年半の据置期間となる。)、これによって会員の預託金返還請求権の行使は極めて制約されることになる(しかも、九年半後に確実に預託金の返還がなされることが合理的に期待できるような事情も特段にみあたらない。)

被告は、代替措置を講じているとも主張するが、その内容は、預託金(会員権)を三〇〇万円と残余金に分割して売却するというものであるところ、現在市場で本件の会員権が売却できることを認めるに足る証拠はなく、結局、市場から預託金に投下した資本を回収する方途もないに等しいといわざるを得ない。

そうすると、本件の延長決議は、原告の預託金返還請求権を実質的には剥奪するに等しい内容のものといわざるを得ず、このような決議をすることを是認するような合理性は、本件においては認められないといわざるを得ない。

3  なお、被告は、本件においては、会員の過半数が延長決議に賛同している旨主張するが、たとえ会員の多数が賛同しているとしても、そのことからただちに個々の会員の権利を制限することが正当化されるわけではなく、あくまで、延長決議に合理性があることが必要になるが、そのような合理性があると認められないことは既に検討したとおりである。

三  そうすると、本件においては、本件会則第一五条に該当する事由があるとはいえず、本件の延長決議は有効であるとはいえない。

四  よって、原告の請求は理由があるから、これを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 土谷裕子)

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